高島敏夫の研究室

白川文字学第二世代です。2017年8月にはてなダイアリーから引っ越してきました。少しずつ書き継いでいきます。

2011-01-01から1年間の記事一覧

007雅語の普遍性と中国語【甲骨文の誕生007】

文字とは何か?──最古の文字とは?(7) 雅語の普遍性と中国語 金文に刻られた祭祀言語 前回は、甲骨文で書かれた卜辞が占卜という儀式の時に発せられた言葉を記録したものである、ということを述べました。遠く新石器時代から行なわれてきた儀式としての占…

006甲骨文の中の表音文字(借字)【甲骨文の誕生006】

文字とは何か?──最古の文字とは?(6) 甲骨文の中の表音文字(借字) 文字体系が整う最も重要な条件は表音機能を具えることでした。前回取りあげたわが国の文字体系も、表音専用の文字である平仮名と片仮名が発明されることによって、ようやく土台が完成…

005日本語の文字体系──借字と漢字仮名交じり文【甲骨文の誕生005】

文字とは何か?──最古の文字とは?(5) 日本語の文字体系──借字と漢字仮名交じり文 我々日本人が今普通に使っている「漢字仮名交じり文」という書記システムは一朝一夕にできたものでないことは誰もが知っています。また、日本人がはじめて文字を使って文…

004表音機能と文字体系【甲骨文の誕生004】

文字とは何か?──最古の文字とは?(4) 表音機能と文字体系 今回は前回たどりついた文字概念から出発します。一つは中国の文字学者・裘錫圭が提示した「言語を記録する記号」という捉え方。いま一つはフランスのアッシリア学者ジャン・ボテロが提示した「…

003文字という概念【甲骨文の誕生003】

文字とは何か?──最古の文字とは?(3) 文字という概念 前回、最古の文字とは何かという問題を追究するために最も必要なことが何であったかが明らかになりました。文字とは何かということをはっきりさせておかねばなりません。そうしないと最古の文字であ…

祭祀言語の記録 甲骨文

祭祀言語の記録 甲骨文 2011.11.20同志社大学明徳館1番教室における講演 高島 敏夫 野生から文明へ 文字というものがなぜ生み出されたのかという問題は、人類にとって非常に大きな問題を孕んでいます。なぜなら文字を生み出し、それを大勢の人々が使うよう…

ロストロポーヴィチの音──バッハ『無伴奏チェロ組曲』

ロストロポーヴィチの音は軽くて深い。 若い頃好きだったロストロポーヴィチのチェロ演奏に長い間触れていなかった。その存在が再び目の前に迫ってきたのは、バッハ『無伴奏チェロ組曲』(全曲)のCDが出た時だ。CDを取り出してみると1995年となって…

速く読むためには深く読む訓練を積んでおく

小説家の平野啓一郎が『本の読み方 スローリーディングの実践』を出している。京大出身の物書きだと本を要領よく読む方法などという本を出しそうだが、さすがは小説家だ、ゆっくり深く読む方法を書いている。 私が学生諸君に勧めている方法とは多少違いもあ…

《陳風》「防有鵲巢」の読解を中心に

先日の《白川詩経研》は「防有鵲巢」と「月出」の二篇を読んだ。「防有鵲巢」についてはほとんどの研究者がうまく説明できていない。各章の第2句までの興的表現の理解がうまく行っていないのだ。これが最大のポイントである。一旦解けてしまうと理解が深ま…

内田光子 モーツァルト「ピアノ協奏曲13番」

内田光子のモーツァルト「ピアノ協奏曲」を聴いたのはこれが3曲目である。この人の演奏は聴くたびに発見がある。そしてその演奏の仕方に舌を巻く。今回は20番とも25番とも曲想の違う印象があった。この曲はいくぶん軽快なパッセージが特徴になっている…

JIS外ユニコードが表示できるようになっている

以前「甲骨文の誕生」を[連続講義]としてこのはてなダイアリーに書いていたが、JIS外ユニコードが表示できなくて不便を感じた。それでやむをえず、表示できるブログを見つけて書いてきた。今日ふと思い立って試してみたところ、はてなダイアリーでも表示でき…

《陳風》「墓門」の読解

昨日の《白川詩経研》は前回に続いて「墓門」を解読する会になりました。今までやってきた研究会の中で最も重要な内容になりました。それは語彙の用例を徹底的に調べてくるだけでなく、それらの用例を読み抜くことによって、解読しきれなかった詩句を理解す…

内田光子 モーツァルト『ピアノ協奏曲25番』

内田光子のピアノでモーツァルト『ピアノ協奏曲25番』を聴いた。久しぶりである。私はもともとモーツァルトのピアノ曲をあまり聴かなかったのだが、フリードリッヒ・グルダの演奏する20番を聴いてからというもの、機会を見つけては聴こうという気持ちが…

雅頌の「魚」から、「墓門」に入る

昨日の《白川詩経研》は予告通り、雅頌における「魚」についての調査報告から始まりました。雅頌では魚が祖霊を暗示するものとして歌われていることや、霊的な存在としてと見立てられていることが述べられました。前回までにやった国風では、女の隠喩である…

《国風》に見える「魚」(その1)

先週の《白川詩経研》もまた妙に盛り上がりました。《国風》に見える「魚」が必ずしも女性の隠喩とは限らない、しかし男性とも断定しがたい。強いて言えばやはり女性のような、といった調子でしたが、聞一多の言い方としては「匹偶」ですから文字通り受け取…

《陳風》について

今日は《陳風》「衡門」から読み始めました。この「衡門」はなかなか曲者で、含みのある表現が多いだけでなく、説明がしにくい側面がありました。恋の歌というよりもかなり猥雑な内容であるらしい。「魚を食う」という表現がやはり話題になりました。「魚」…

国民に国旗と「君が代」を強要するのは為政者自身が愛国心をもっていないからだ

国旗を掲揚し「君が代」を歌うことを強制する。こういう法律を決めて何をもたらすかを為政者の立場にある人たちは冷静に考えたことがあるのだろうか? 国民にこういうことを強制する人々というのは、人の心の働きをあまり考えない人たちに違いない。だから理…

白川詩経研究会の第1回を終えて

昨日実施した、学生諸君との「白川詩経研究会」(白川詩経を読む会)は少人数ながら大変充実した楽しい会となりました。昨日は不明の語彙の意味を見極める時、用例を調べて割り出していく方法を伝授しました。今後はそれぞれが実践しながら技量を高めるよう…

おしらせ

[連続講義]「甲骨文の誕生」の続きは別の所(非公開)で展開します。悪しからずご了承下さい。

文字とは何か?──最古の文字とは?【甲骨文の誕生002】

文字とは何か?──最古の文字とは?(2) 新石器時代の符号は文字なのか? 新石器時代の土器などに刻られている符号が文字であるかどうかについて考えてみることにします。中国の考古学は近年めざましい進歩を遂げてきましたので、どんどん新しい資料が出て…

文字とは何か?──最古の文字とは?【甲骨文の誕生001】

文字とは何か?──最古の文字とは?(1) はじめに 中国最古の文字とは何ですか? というようなクイズがよく出ますが、おそらくこれに対して「甲骨文」という正解を出せない人はあまりいないでしょう。しかしその一方で、公式的に言えば現存する文字が「甲骨…

復興実施本部の設置をめぐる政争をどう見るか

大震災の復興実施本部の設置をめぐって有力政党が決裂した。このことを外からどう見えるかということを記しておきたい。こういう時は各政党党首のあるいは幹事長などのトップクラスにいる人たちの個々の発言内容や行動の是非を、一つ一つ吟味しているよりも…

三浦つとむ『日本語はどういう言語か』(その2)

三浦つとむ『日本語はどういう言語か』(その2) 主体的表現と客体的表現 三浦つとむ『日本語はどういう言語か』について書きかけておきながら、前置きだけで終わっていた。言語過程説とソシュール言語学とは対立関係にあるものではない、ということを言って…

三浦つとむ『日本語はどういう言語か』(その1)

以前、言語学の必要性ということを書いたことがある。その時、ソシュール言語学の重要性について書いた。しかし言語学というのは色々なアプローチの仕方がある。今日書こうと思っているのは、文学作品の研究に役立てるための言語学つまり「表現された言語」…

グルダのモーツァルト「ピアノ協奏曲20番」そして内田光子の同曲

先日書いたことだが、「グルダのように上手く弾けないけどやってみる」と言って弾き始めたアルゲリッチの言葉が耳に残っていて気になっていた。それで、グルダ演奏のモーツァルト「ピアノ協奏曲20番」を検索してみた。これまた簡単に出てきた。そして直ぐに…

原発をめぐるとりとめのない想念

原発の多いのは福島県と福井県。どちらも人口が少なく風景の美しいところだ。福島県は第1原発と第2原発を合わせて10基。福井県は敦賀が2基、美浜3基、大飯4基、高浜4基で、合わせて13基。原発銀座とも言われている。福島県と福井県を合わせると23基の原発が…

日本赤十字社 東北関東大震災義援金

今日は義援金を送ってきた。こんなことしか出来ないのがもどかしいが、先立つものは金だ。取り敢えずこの形で支援する。ある知人が、一度にたくさん送って終わらせるのではなく、毎月少しずつ分けて送ると言っていたとのこと。いい考えだ。女房と話し合って…

研究論文の心臓部分は論証過程だ

学問や研究と呼ぶ世界ではその論文の命は論証である。特に論証過程が最も重要なのであって、極論すれば結論は二の次である。どのように論証しているかによって結論の是非を判断するということだ。 更にもう一点言うならば、物事を考える場合には必ず前提があ…

アルゲリッチ演奏、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番

アルゲリッチの演奏でモーツァルトのピアノ曲を聞いたことがなかったのだが、今日はふと思い立って、YouTubeを検索したところ本当に出てきた。凄い時代になった。画面の右上にBS2と書いてあるので、衛星テレビの録画である。こういうことができるのか。画面…

フレーザー『旧約聖書のフォークロア』

フレーザーの『旧約聖書のフォークロア』に戻る。目次のうち章立ての大目次だけを下に記しておいた。 私は一昨年、「春秋時代における『天命』と『大命』」(「学林」49号)と題して、古代中国における成文法のことについて論じた時に、古代イスラエルの場合に…