高島敏夫の研究室

白川文字学第二世代です。2017年8月にはてなダイアリーから引っ越してきました。少しずつ書き継いでいきます。

白川静『甲骨金文学論叢』の概略

 白川静『甲骨金文学論叢』の概略について記してみます。原テキストは白川の自筆で書かれた油印本ですが、平凡社の『白川静著作集』の別巻として出版されつつあります。上・下2巻構成で、現在は上だけ刊行されています。
 この論文集の中核になる論文は5篇ありますが、比較的読みやすいと思われる順番に並べてみると次のようになります。

 1、釈文
 2、釈南
 3、釈師
 4、釈史
 5、作冊考

 最初に発表したのが「釈史」。例の「U[さい]」字形が祝詞(祝辞)を入れる器だということを論証したもの。単にそれだけではなく、これが史官の歴史とどう関わっているかというところにも視野が及んでいます。ですから「U」字形を中国の古代史の中で理解する必要があるわけです。かなりの長篇でもあって、専門外の人や学生には超難解らしいですが、おどろおどろしい世界を書いているわけではなく、実証的な論文です。緻密に論証しているので粘り強く読めば分かるはずです。理解できれば白川静がいかに凄い学者であったかが実感できるでしょう。
 しかしその粘り強さを現代人は失ってしまったのかも知れないと、最近しきりに感じつつあります。文化国家日本としては少々やばいんじゃないか、そんな危機感すらもっています。何しろ分かりやすく単純化した文章が溢れている時代ですから。分かりやすさは重要なのですが、極端に単純化したものには、事実を枉げて書いているものもあると思ってみる必要があります。
 『甲骨金文学論叢』は、白川静の漢字関係の一般書、『漢字』『漢字の世界』『漢字百話』と比べれば、周到極まりない論証の連続ですので非常に読み応えがあります。学問的な厳密さを求めている人は是非とも挑戦していただきたい。私も一肌脱いだつもりで、「読『釈史』──〈白川文字学の原点に還る〉」というような表題をつけて手引き書風のものを書いています。シリーズ化して、「立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所紀要」に掲載していますので、ご覧下さい。下記のところからダウンロードできます。

 立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所 刊行物
  http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/sio/bulletin.html