高島敏夫の研究室

白川文字学第二世代です。2017年8月にはてなダイアリーから引っ越してきました。少しずつ書き継いでいきます。

久保寺逸彦『アイヌの文学』

 ある本を探していたら昔買っておいた『アイヌの文学』(岩波新書 1977年)が見つかった。これは「東京学芸大学研究報告」第七集別冊(1956年)所収の「アイヌ文学序説」をそのまま収録したものだという。ぐんぐん引き込まれる。素晴らしい研究だ。アイヌ語の口頭言語にも雅語と口語とがあったという書き出しに引き込まれたのだ。以前、河野六郎西田龍雄の対談『文字贔屓』で話題になっていた、どの民族の話し言葉にも雅語と口語とがあったというので、私の書棚にないものかと探していたところだった。「雅語」というのは、古代中国であれば『論語』に出てくる「雅言」がそれに当たるだろう。今私が追究しているテーマにぴったり合う材料が自分の書棚に眠っていたというのは、ちょっと複雑な気持ちだが、ラッキーだったとも言える。アイヌの言語世界から古代人の言語世界を垣間見る思いがする。またアイヌの女はみな巫女の役割をする、という一節にもなるほどと頷くところがある。これは甲骨文を読む場合にも大いに活きてくる知識だ。最近の古代研究はこういう分野を忘れてはいないだろうか? 白川文字学をいかがわしいものであるかのように思う若い人たちは、こういうものを読まない人たちであるに違いない。
 以下、目次を書き抜いてみた。

 序
 Ⅰ アイヌ語における雅語と口語
 Ⅱ アイヌの歌謡
 Ⅲ アイヌの歌謡の種々相
 Ⅳ 巫女の託宣
 Ⅴ 神謡
 Ⅵ 聖伝
 Ⅶ 英雄詞曲と婦女詞曲
 Ⅷ 散文の物語
 Ⅸ アイヌ文学の発生的考察

 昔の新書はこういう格調の高い研究書がそのまま収録されていたのか。素晴らしいことではないか。