高島敏夫の研究室

白川文字学第二世代です。2017年8月にはてなダイアリーから引っ越してきました。少しずつ書き継いでいきます。

白川文字学の原点は『甲骨金文学論叢』

 白川静の文字学は『字統』『字訓』『字通』の3部作で世に知られることになりました。しかしこれらの字書を書く土台があったのです。それは『説文新義』でしょう? というお答えが白川ファンから返ってきそうですが、違います。『説文新義』のさらに前に『甲骨金文学論叢』という論文集を書いています。これは白川静の40代後半に心血を注いで書いた、字源の論証論文なんですが、実に緻密な論証をやっています。いわゆる甲骨文の語彙の用例を徹底的に拾ってきて、その用例に基づいて結論を出していくものです。ちょっと読むのが面倒になるほど、骨の折れる論文ばかりです。そういうことですから、いわば知る人ぞ知るといってもいいほどですが、知らない人もかなり多い。これを読んだ人が何人いるかということになると、はなはだ覚束ないことになりますが、甲骨金文の研究をする人がこれを知らなかったりしたんでは、恥ずかしいようなものです。白川静がこれを書いた頃の専門家はみな読んだものですし、また異議を唱えようもないほど緻密な論証で説得力があったものだから、一緒に研究会をしていた京大の人たちも支持をしていたということでした。そして京都府知事賞を受賞する話しまで出ていたのですが、白川はこれを断った。まあ書き出せばいろいろ裏話のあるものですが、このへんで。後、付け加えるとすれば、白川の死後、白川批判をやり始めた人たちがいますが、この論文集を読んでいません。読んでいないことが、批判の内容から分るのです。読んでいない人に分らないだけのことです。