久保寺逸彦『アイヌの文学』のことから、古代呪術の世界が最近の若い人に知られていないことを連想した。ついでにフレーザー『金枝篇』についても書いておいた方がよさそうだ。岩波文庫では5冊構成になっている。これは縮小版であって、全訳は東京書籍あたりから近年出たと記憶する。さて、下に岩波版の第1冊目の目次を書き出してみた。「第1章 森の王」は、イタリアはローマにも近いネミの森の王が後継者に殺されることから始まる、なかなか興味深いものである。「第2章 祭祀王」から「第3章 共感呪術」へと進むと、まさに古代の世界というか、いやむしろ未開社会の思考法が具体的な例を使ってリアルに語られていく。フレーザーの叙述は淡々としているために、いっそうリアルな印象を受ける。いま未開社会の思考法と書いてしまったが、レヴィ=ストロースはこれを野生の思考と名づける。未開社会とか野蛮な社会などと言うのは、文明人という自覚からそう呼ぶのだろうが、そういう考え方は間違っている、というのがレヴィ=ストロースの主張だ。なるほどその通りだ。
第1章 森の王
1 ディアーナとウィルビウス
2 アルテミスとヒッポリュトス
3 要約
第2章 祭司王
第3章 共感呪術
1 呪術の原理
2 類感呪術または模倣呪術
3 感染呪術
4 呪術師の発達
第4章 呪術と宗教
第5章 天候の呪術的調節
1 公的呪術師
2 降雨の呪術的調節
3 太陽の呪術的調節
4 風の呪術的調節
第6章 王としての呪術師
第7章 受肉の人間神
第8章 自然の部分王
第9章 樹木崇拝
1 樹木の精霊
2 樹木の精霊の恩沢
第10章 近代ヨーロッパのおける樹木崇拝の名残り
第11章 植物生育に対する性の影響
第12章 神聖な結婚
1 豊饒の女神としてのディアーナ
2 神々の結婚
こうして見ていると、古代中国は殷代が野生時代最後の時代であったという感を深くする。